機能性ディスペプシア(FD :functional- dyspepsia)とは、胃の痛みや胃もたれなどのさまざまな症状が慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査などを行っても、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどのような異常がみつからない病気です。生命にかかわる病気ではありませんが、つらい症状により、患者さんの生活の質を大きく低下させてしまう病気です。
主な症状は「つらいと感じる食後のもたれ感」「食事開始後すぐに食べ物で胃が一杯になるように感じて、それ以上食べられなくなる感じ(早期飽満感)」「みぞおちの痛み(心窩部痛;しんかぶつう)」「みぞおちの焼ける感じ(心窩部灼熱感;しんかぶしゃくねつかん)」の4つです。
日本人の4人に1人は機能性ディスペプシアを持っているという調査結果もあり、決して珍しい病気ではなく、誰もが罹患する可能性のある病気です。
この「機能性ディスペプシア」という病気の概念は、近年になって新しく確立したものです。それまでは、機能性ディスペプシアの患者さんの多くは「慢性胃炎」や「神経性胃炎」と診断されていました。本来「胃炎」とは、胃の粘膜に炎症が起きている状態を表す言葉です。ところが、胃炎があっても症状があるとは限らず、逆に症状があっても胃炎が認められないことも多々あります。そこで、症状があってもそれを説明できる異常がさまざまな検査でも認められない場合、胃に炎症があるなしにかかわらず「機能性ディスペプシア」と呼ばれるようになりました。
● 運動機能障害
- 貯留機能の障害
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食べ物が食道から胃へ入ってきても胃の上部がうまく広がらず、入ってきた食べ物を胃の中にとどめることができなくなってしまう状態を指します。これにより、早期飽満感や痛みなどが引き起こされます。
- 排出機能の障害
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胃の中にある食べ物を、十二指腸へうまく送ること(排出)ができず、胃の中に食べ物が長くとどまってしまう状態を指します。これにより、胃もたれなどが引き起こされます。一方で、胃から十二指腸への排出が速くなってしまい、痛みなどの不快感が引き起こされる場合もあります。
- 貯留機能と排出機能の関係
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胃の貯留機能と排出機能は密接に関係しているといわれています。
本来、胃の中の食べ物は十分な時間をかけて十二指腸へ運び込まれますが、胃の貯留機能が障害されると、急に十二指腸へ食べ物と胃酸が運び込まれてしまいます。すると、十二指腸は胃の排出機能を抑えるように働きかけて、結果として食べ物が胃から排出されなくなり、胃もたれなどの症状を引き起こす場合もあります。
● 胃の知覚過敏
「知覚過敏」とは胃が刺激に対して痛みを感じやすくなっている状態を指します。正常であれば何も感じない程度の刺激であっても、「知覚過敏」の状態では、少量の食べ物が胃に入るだけで胃の内圧が上昇し、早期飽満感が引き起こされたり、胃酸に対して過剰に痛みや灼熱感などを感じることがあります。
● 胃酸分泌
十二指腸に胃酸が流れ込むことによって胃の運動機能が低下し、胃もたれなどのさまざまな機能性ディスペプシアの症状が引き起こされることが知られています。また、知覚過敏の状態では正常な胃酸分泌であっても痛みや灼熱感などを感じることがあります。
● 心理的・社会的要因
生活上のストレスなどの心理的・社会的要因と機能性ディスペプシアは関係があると言われています。
● ピロリ菌
ピロリ菌とは胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性胃炎、胃がんなどにかかわる、胃粘膜に生息する細菌です。このピロリ菌と機能性ディスペプシアの関係は明らかにされていません。
しかし、ピロリ菌に感染している機能性ディスペプシアの患者さんに除菌療法を行うと、機能性ディスペプシアの症状が改善するという報告もあります。
● 生活習慣の改善
過食、早食い、不規則な食習慣や、喫煙、過度の飲酒を避けるように食生活、嗜好品に対するアドバイスを行っております。
● 薬物療法
消化管運動機能改善薬、胃酸分泌抑制薬、漢方薬、少量の抗うつ薬などを患者さまそれぞれの症状に合わせて処方いたしております。最近では新しい作用機序の消化管機能改善薬であるアコチアミドの効果にも期待が持たれており当院でも処方いたしております。